Lesson11

ITとビジネス戦略

Lesson 11Chapter 1
学習の目標

現代の企業活動では、ビジネス戦略と連動したIT活用が大きな鍵を握ります。

戦略とITが一体となることで、新規事業やサービスモデルの拡張、顧客接点の最適化など、多彩な成果が期待できるのです。

このレッスンでは、ITがビジネス全体の戦略をどのように支え、事業に貢献していくのかを確認していきます。

企業がITを導入・活用する背景や意義を学び、高い視座を持って「ビジネス戦略とITを結びつけるプロセス」の全貌を把握しましょう。

本レッスンの主な内容

  • 会社とビジネス戦略
  • マーケティングと事業価値の創出
  • 経営管理システムの活用
  • 会計・財務の基礎
  • ITガバナンスと標準化
  • 各種法務・ガイドラインと企業倫理

本レッスンのゴール

ビジネス戦略とITを結びつけ、自社や自身の業務に具体的に応用できるようになること

本レッスンの前提条件

  • ビジネスパーソンに必要なITスキルを把握していること(レッスン1)
  • コンピュータの中身について正しいイメージを持っていること(レッスン2)
  • ネットワークとインターネットの基本的な仕組み、関連技術、およびそれらがどのようにつながり合っているかを正しく理解していること(レッスン3)
  • 情報資産を守るための情報セキュリティの基本概念と3要素、リスク評価、脅威・対策技術、法規制を正しく理解していること(レッスン4)
  • アルゴリズムとプログラミングの基礎、システムとプログラムの関係を正しく理解していること(レッスン5)
  • データベースの基礎や設計・運用の考え方、SQLの基本を理解し、ビジネスでのデータ活用をイメージできること(レッスン6)
  • クラウドの特徴や利点、リスク、運用方法を理解し、ビジネスにおけるクラウド活用をイメージできること(レッスン7)
  • テクノロジーがどのように社会やビジネスを支え、今後の可能性を広げるのかを理解していること(レッスン8)
  • システム開発における主要フェーズの流れや役割を理解していること(レッスン9)
  • DXの基本概念と必要性を理解し、自社や自身の業務に当てはめて考えられること(レッスン10)

Lesson 11Chapter 2
会社とビジネス戦略

はじめに、会社とは何かを取り上げ、ビジネス戦略と目標設定、代表的な経営戦略手法、会社の組織形態について見ていきましょう。

  • 会社とは
  • ビジネス戦略と目標設定
  • 経営戦略フレームワーク
  • 組織形態

Lesson 11Chapter 2.1
会社とは

会社 とは、一定の目的を達成するために、法的なルールに基づいて設立された組織です。

通常、会社は「利益を追求するための組織」であり、事業活動を通じて商品やサービスを提供し、その収益を上げることを目的とします。会社は法律上の「法人」としての人格を持ち、契約を結んだり、資産を所有したり、責任を負ったりすることができます。

会社法

会社法 は、日本の会社形態を規定する基本的な法律です。

会社法では、会社の設立や運営方法、株主総会や取締役会のあり方、計算書類(財務諸表)の作成などについて定めています。

具体的には、設立手続きにおける定款の作成や、公証人の認証、資本金の払い込みといったプロセスが詳細に規定されています。

また、会社法は企業規模に応じて取締役や監査役の人数、取締役会・監査役会の設置義務を決めており、上場企業など大規模な会社はより厳格な規制に従う必要があります。

株式会社

株式会社 は、会社の最も一般的な形態で、株式を発行して資金を集める企業形態の1つです。

株式を購入した人は「株主」となり、企業の所有者の一部となります。株式会社の主な特徴は、資本が株式として分割され、それを通じて資金調達を行なう仕組みと、株主が出資額を超える責任を負わない「有限責任」である点です。

配当

配当 とは、企業が得た利益の一部を株主に分配するものです。

  • 株主は、企業が儲かった場合にその利益の一部を受け取る権利があります。
  • 配当の額や支払頻度(例:四半期ごと、年1回など)は、株主総会で決議されます。
  • 配当を受け取ることで、株主は保有する株式の収益性を実感できます。

株主総会

株主総会 とは、株式会社の意思決定を行なうための重要な会議です。

  • 株主が参加して企業の運営方針や重要事項について議論し、投票で決定します。
  • 主な議題は、取締役の選任、配当の決定、定款変更などです。
  • 株主総会には「通常株主総会」と「臨時株主総会」があり、通常株主総会は毎年1回開かれます。

キャピタルゲイン

キャピタルゲイン とは、株式などの資産を購入価格より高い価格で売却し得られる利益を指します。

  • たとえば、ある企業の株を1株1,000円で購入し、1,500円で売却した場合、その差額500円がキャピタルゲインです。
  • キャピタルゲインは、株式投資における主な収益源の1つで、配当とは異なる利益形態です。
  • 反対に、売却時の価格が購入時より低い場合には「キャピタルロス」が発生します。

経営陣の役職名・責任範囲

株式会社の経営陣にはさまざまな役職があり、それぞれに明確な責任範囲があります。以下に、日本企業と外国企業でよく使われる役職名とその役割について説明します。

日本企業で使われる役職名

株主総会
取締役会
代表取締役(社長)
監査役
執行役員
各部門責任者
  • 代表取締役(社長)
    代表取締役(社長)は、会社を法的に代表する役職です。株主総会や取締役会の決議に基づいて選任され、企業の最終的な意思決定を行ないます。
  • 取締役
    取締役は、取締役会のメンバーとして会社の重要事項を決定する役割を持ちます。具体的には、経営計画や年度予算の承認、業務執行の監督が主な職務です。株主総会で選任され、取締役会を構成して会社の方針を議論・決定します。
  • 監査役
    監査役は、取締役の業務執行や会社の会計を監査する役割を担います。会社法に基づき、株主総会で選任され、取締役会の決定や業務が法令や定款に違反していないかを監視します。業務監査と会計監査を通じて、会社の健全性を守ります。
  • 執行役員
    執行役員は、会社法上の役職ではありませんが、取締役会が策定した方針に基づき、各部門の業務執行を統括する役職です。業務執行に特化し、現場をリードする役割を持つため、大企業で導入されるケースが多いです。取締役が経営方針を決定するのに対し、執行役員はその方針を実行する立場にあります。

外国企業でよく使われる役職名

一部の日本企業でも、これらの役職名を使用するケースが増えています。

  • CEO(最高経営責任者)
    CEOは、企業全体の経営を統括する最高責任者です。日本企業の「代表取締役(社長)」に相当する役割を担います。
  • COO(最高執行責任者)
    COOは、CEOが立案した戦略に基づき、企業の日常業務を円滑に進める責任を負います。業務執行に特化し、各部門間の調整や現場の管理を行ないます。日本企業の「執行役員」や「取締役(業務執行を担当する取締役)」の役割に近いものといえます。
  • CFO(最高財務責任者)
    CFOは、企業の財務戦略を統括する責任者で、予算編成や資金調達、投資計画、財務分析などを担当します。日本企業の「取締役(財務担当)」または「執行役員(財務部門担当)」の役割に近いです。
  • CIO(最高情報責任者)
    CIOは、企業のIT戦略や情報システムを統括し、デジタル技術の活用やセキュリティ対策を推進します。経営全体の効率化や競争力強化を図る役割を担います。日本企業の「執行役員(IT部門担当)」に相当します。
  • CTO(最高技術責任者)
    CTOは、企業の技術開発や研究をリードする責任者で、新製品やサービスのイノベーションを推進します。日本企業の「執行役員(技術部門担当)」や「取締役(技術担当)」に相当します。

Lesson 11Chapter 2.2
ビジネス戦略と目標設定

企業が成長を目指すうえで、明確な「ビジョン」と「経営理念」を設定することは欠かせません。

ビジョン

ビジョン は、企業が将来的に実現したい姿です。長期的に追求する理想像を描きます。

社内外に対して企業の方向性を示し、社員のモチベーションを高め、ステークホルダーの支持を得る役割を果たします。

例:

  • グローバルに通用する製品を開発する
  • 持続可能な社会をリードする企業になる

経営理念(ミッション)

経営理念(ミッション) は、現在の活動における存在意義や目的です。

企業がなぜ存在するのか、社会にどう貢献するのかという根源的な問いに対する答えです。経営理念を全社的に共有することで、日々の業務やプロジェクトの判断基準が明確になります。

例:

  • 顧客に最良の体験を提供する
  • 革新を通じて社会に貢献する

目標設定(KGI、KPI)

ビジョンやミッションを基軸に、各事業や部門ごとに具体的な数値目標を設定します。

売上や利益だけでなく、顧客満足度やシェア率、商品リリースの速度など、企業が重視する指標を段階的に洗い出します。

数値目標には、「KGI」や「KPI」があります。

  • KGI(Key Goal Indicator)
    組織全体の最終的なゴールを指す指標です。売上高や利益率、市場シェアなどの大きな成果指標を示し、戦略の最終成果を測る役割を担います。
  • KPI(Key Performance Indicator)
    KGIを達成するために中間指標として設けられる具体的な項目です。たとえば、ECサイト運営では「月間PV数」や「カート投入率」、SNS経由での新規顧客数などがKPIになり得ます。これらの数値が目標水準を超えれば、最終的に売上や利益の増大につながる可能性が高まります。

設定したKPIは、定期的にモニタリングし、達成度や進捗状況を確認します。問題が見つかれば、原因を分析して改善策を立案し、実行後に再度評価します。こうしたPDCAサイクルの継続により、戦略が机上の空論に終わらず、実効性の高いものへと成熟していきます。

BSC

BSC(Balanced Scorecard: バランス・スコアカード)は、企業の目標達成状況を包括的に評価するためのフレームワークです。以下の4つの視点で評価します。

  1. 財務の視点
    • 売上高、利益、コスト削減といった財務パフォーマンスを測定します。
    • 例:営業利益率を20%に向上させる、売上成長率を15%に達成する
  2. 顧客の視点
    • 顧客満足度、ブランド力、顧客維持率など、顧客に対する価値を測定します。
    • 例:顧客満足度調査で平均スコア90点以上を獲得する
  3. 業務プロセスの視点
    • 製造プロセスやサービス提供プロセスの効率性、品質を評価します。
    • 例:製品開発サイクルを12か月から10か月に短縮する
  4. 学習と成長の視点
    • 社員のスキル向上、社員満足度、イノベーションの促進など、長期的な成長基盤を測定します。
    • 例:社員の研修受講率を80%以上にする、特許出願数を前年比25%増加

CSR

CSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)は、企業が経済活動を行なう中で利益追求だけにとどまらず、環境保護や社会貢献など、社会全体の持続可能性を高める責任を果たすことを指します。

企業はステークホルダー(株主、顧客、従業員、地域社会など)に対する影響を考慮し、社会との調和を図る活動を行ないます。

CSRの主な分野の例:

  • 環境への配慮
    • 温室効果ガスの削減、省エネルギー、リサイクル推進など、環境問題への取り組みを行ないます。
    • 例:製品パッケージを100%リサイクル可能な素材に変更する
  • 社会貢献活動
    • 地域社会の発展や教育支援、寄付活動を通じて、社会の課題解決に取り組みます。
    • 例:地元の学校にIT設備を提供する、社員のボランティア活動を支援する
  • 倫理的なビジネス運営
    • 公正な取引、労働環境の改善、人権の尊重など、企業倫理を重視した経営を行ないます。
    • 例:労働時間の短縮によるワークライフバランスの実現
  • ステークホルダーとの協働
    • 株主、顧客、従業員、地域住民など、企業活動の影響を受ける人々と積極的に対話し、信頼関係を構築します。

Lesson 11Chapter 2.3
経営戦略フレームワーク

経営戦略には、企業が自身の立ち位置や環境を分析して、今後の方向性を決定するためのフレームワークがいくつも存在します。

それぞれのフレームワークには特徴があり、組み合わせて使用することで企業を多角的に分析できます。ここでは、経営戦略で良く使われる代表的なフレームワークと用語について整理します。

  • PEST分析
  • 3C分析
  • ファイブフォース分析
  • 経営戦略用語

PEST分析

PEST分析 は、企業の外部環境を政治的(Political)、経済的(Economic)、社会的(Social)、技術的(Technological)の4つの側面から分析するフレームワークです。

PEST分析では、企業が事業を行なうえで影響を受ける可能性のある外部要因を特定し、機会とリスクを把握できます。これにより、経営戦略の立案や意思決定に役立てることができます。

どのような場面で使うか
  • 新規事業の立ち上げ時
  • 新製品の開発・投入時
  • 海外進出の検討時
  • 経営計画の見直し時
  • M&Aの検討時
使い方の例

ある自動車メーカーがEV(電気自動車)事業に参入することを検討しているとします。PEST分析を行なうと以下のようになるでしょう。

  • ■政治的環境(Political)
    • 政府による環境規制の強化
    • EV購入支援策の導入
    • 一部地域でガソリン車販売禁止の動き
  • ■経済的環境(Economic)
    • 原油価格の高騰によるガソリン車コストアップ
    • EV購入補助金制度
    • 社会インフラ整備への公的投資増
  • ■社会的環境(Social)
    • 環境意識の高まり、EVへの関心増
    • 都市部の渋滞や大気汚染問題
    • 先進国を中心としたEV需要の拡大
  • ■技術的環境(Technological)
    • 電池技術の進化とコスト低減
    • 急速充電器の普及
    • 自動運転技術との連携や高度化

このように分析することで、EV事業に対する機会(規制強化、補助金、環境意識の高まりなど)とリスク(インフラ投資の遅れ、技術力の有無など)が明確になります。

自社の経営資源や競争力を踏まえたうえで、最終的にEV事業参入の是非を判断することになります。

3C分析

3C分析 は、ビジネスにおける顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの要素を分析するフレームワークです。

ビジネスの成功には、顧客ニーズを正しく捉え、競合に対する優位性を確保し、自社の経営資源を有効活用することが欠かせません。3C分析はこれらの重要な要素を体系的に分析するツールとなります。

どのような場面で使うか
  • 新規事業の立ち上げ時
  • 新製品の企画・開発時
  • マーケティング戦略の策定時
  • 事業計画の見直し時
使い方の例

ある飲食チェーン店が新規出店を検討している場合を例に3C分析を行ないます。

  • ■顧客(Customer)分析
    • ターゲット層(年齢、性別、収入、嗜好など)
    • 顧客ニーズ(価格帯、メニュー、店舗環境など)
    • 購買行動(来店頻度、1人当たり客単価など)
  • ■競合(Competitor)分析
    • 主要な競合店舗(業態、売上、強みなど)
    • 競争環境(競合の多寡、価格競争の有無など)
    • 自社の競争優位性(味、コスト、立地などの差別化ポイント)
  • ■自社(Company)分析
    • 経営資源(人材、資金、設備など)
    • 事業運営能力(調理力、マーケティング力など)
    • ブランド力、信頼性

たとえば、ターゲット層が家族連れで価格重視という分析結果であれば、リーズナブルな価格帯とキッズメニューの充実が必要となります。

競合が飽和しており、価格競争が避けられない場合は、味や雰囲気で差別化を図る必要があります。

自社で人材や資金が不足しているのであれば、フランチャイズ方式を検討するなどの対策が考えられます。

5Forces分析

5Forces分析 は、マイケル・E・ポーターが提唱した業界の競争状況を分析するためのフレームワークです。

この分析では、新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、業界内の競争の5つの力を評価します。これにより、その業界の魅力度や競争の激しさを把握できます。

どのような場面で使うか
  • 新規事業参入の検討時
  • 事業ポートフォリオの見直し時
  • 競争戦略の立案時
  • M&A対象の検討時
使い方の例

あるスマートフォンメーカーがスマートウォッチ事業に参入することを検討しているとします。5Forces分析を行なうと以下のようになります。

  1. 新規参入の脅威
    • 技術の専門性が高く、参入障壁が高い
    • 既存大手メーカーとのブランド力の差
  2. 代替品の脅威
    • 従来の腕時計との競合
    • スマートフォンのウェアラブルアプリなども代替に
  3. 買い手の交渉力
    • 需要が多様化しており、価格競争が避けられない
    • 大手小売店のバイイングパワーが高い
  4. 売り手の交渉力
    • 部品調達先が限られており、交渉力が高い
    • 新規参入者には不利
  5. 業界内の競争
    • アップル、サムスン、Googleなど大手が存在
    • 新製品投入の頻度が高く、競争が激しい

このように分析を行なうことで、スマートウォッチ業界への新規参入の障壁が高く、競争が激しいこともわかります。一方で、ウェアラブル市場の成長が見込まれるため、参入のチャンスもありそうです。

経営戦略用語

あわせて経営戦略用語についても確認しておきましょう。

  • M&A(Mergers and Acquisitions)
    他社との「合併(Merger)」や「買収(Acquisition)」によって事業を拡大する方法です。新規市場への参入や自社技術の強化などを目的に行なわれます。
  • アライアンス(企業提携)
    他社と協力し合うことで相乗効果を狙います。技術や販路の共有、共同開発など、M&Aほど組織を大きく変えない形で事業連携を図る手法です。
  • ベンチャー(企業)
    新しいアイデアや技術をもとに短期間で急成長を目指す企業です。スタートアップとも呼ばれ、イノベーションの源泉として注目されます。大企業が研究開発の一部をベンチャーに委託するなど、連携が増えています。
  • コアコンピタンス(中核的な強み)
    他社が模倣しにくい独自の技術、ノウハウ、ブランド力などを指します。この強みを基盤に新事業を展開し、持続的な競争優位を確立する戦略が一般的です。

Lesson 11Chapter 2.4
組織形態

企業が戦略を実行するには、組織構造が適切に整っている必要があります。代表的な組織形態として、以下の例が挙げられます。

  • 職能別組織
  • 事業部制組織
  • マトリクス組織

職能別組織

営業、開発、経理など、業務機能ごとに部門を分ける最もオーソドックスな形式です。専門性が深まりやすい反面、部門間の壁ができやすいという課題があります。

CEO
マーケティング部
人事部
財務部
開発部

事業部制組織

製品や地域、顧客セグメントなどで事業部を分割する形式です。各事業部が損益責任を負うケースが多く、迅速な意思決定が可能です。ただし、重複投資や部門間競争の激化などに注意が必要です。

CEO
事業部A
事業部B
事業部C
マーケティング
人事
財務
開発
マーケティング
人事
財務
開発
マーケティング
人事
財務
開発

マトリクス組織

職能軸と製品軸など、2つ以上の軸で組織を編成する形態です。複数の上司を持つケースがあるため、役割分担や責任範囲を明確にしないと混乱が生じやすい半面、柔軟で広範な視点が得られます。

事業・製品別
機能別
製品A
製品B
製品C
マーケティング
人事
財務
開発

Lesson 11Chapter 3
マーケティングと事業価値の創出

マーケティング は、企業が提供する製品やサービスの価値を顧客に伝え、市場での存在感を高めるための活動全般を指します。

企業にとってマーケティングが果たす役割は、単に宣伝活動や販促だけにとどまりません。市場のニーズと技術的な可能性を結びつけることで、新しい事業機会やサービスモデルを生み出すきっかけにもなります。

ここでは、マーケティングの基本とデジタルマーケティング、データ分析について説明します。

  • マーケティングの基本
  • デジタルマーケティング
  • ITを活かしたデータ分析

Lesson 11Chapter 3.1
マーケティングの基本

マーケティングを体系的にとらえるために、4Pや4Cなどの基本フレームワークがしばしば利用されます。

観点 4P 4C
価値 Product(製品) Customer Value(顧客価値)
価格 Price(価格) Cost(顧客コスト)
流通 Place(流通) Convenience(利便性)
宣伝 Promotion(プロモーション) Communication(コミュニケーション)

4P

4P は企業目線での販売戦略を構成する要素に着目しています。

製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、宣伝(Promotion)を組み合わせ、ターゲットとする顧客セグメントに適切にアプローチします。

4C

4C は顧客目線を重視し、顧客価値(Customer Value)や顧客コスト(Cost)といった観点から戦略を立案します。

消費者が望む価値を満たすと同時に、購入までの手間や価格を最適化し、コミュニケーションの仕組みを整えることが大切です。

RFM分析

RFM分析 は、以下の3つの指標を用いて顧客を分類し、それぞれに合った施策を行なうための分析です。顧客一人ひとりを深く理解するための手法として知られています。

  • Recency(最新購入日):最後に購入や利用したタイミング
  • Frequency(購入頻度):どれくらいの回数で取引が行なわれているか
  • Monetary(購入金額):合計購入金額、または1回あたりの平均購入額

RFM分析により、リピート率の高い顧客や休眠状態の顧客などを見分け、特定のグループに狙いを定めたプロモーションを展開できます。

市場調査とセグメンテーション

顧客の多様なニーズを理解するには、市場の全体像を把握する 市場調査 が欠かせません。アンケートやインタビュー、Web上のアクセスログなど、あらゆるデータから顧客の年齢や地域、購買行動などを分析します。

市場調査の結果をもとに、セグメンテーション(市場の細分化)を行ないます。たとえば、「若年層でSNS利用が多い層」「高所得者向け高級路線」など、複数の観点を掛け合わせてグルーピングすることで、より的確にニーズをとらえることができます。

Lesson 11Chapter 3.2
デジタルマーケティング

近年では、SNSや検索エンジン、オンライン広告など、デジタル技術を駆使したマーケティングが多くの企業で当たり前になりました。

SNSマーケティング

SNSマーケティング は、X(旧Twitter)やInstagram、LinkedInなどのプラットフォームを活用して、ブランド認知度の向上や顧客との直接的なコミュニケーションを行なう手法です。

  • 日常的に利用されるプラットフォームに公式アカウントを開設し、定期的に情報を発信することで、顧客との関係構築が期待できます。
  • SNS上のコメントやメッセージを通じて顧客の声を迅速に拾い上げることで、商品の改善点や満足度をリアルタイムで把握できるようになります。
  • ユーザーの投稿やシェアを通じて、低コストで口コミを拡大できる可能性があります。キャンペーンやイベント情報をタイムリーに配信できる点も強みです。

検索エンジン最適化(SEO)

SEO(Search Engine Optimization)は、ユーザーが検索エンジンを使って商品やサービスを探す際に、自社のWebサイトを上位に表示させる取り組みです。

  • 適切なキーワード選定やページの構造化を行ない、検索エンジンの評価を高めます。
  • コンテンツの質や量を充実させると同時に、外部サイトからのリンク(被リンク)を獲得することで、検索順位が向上しやすくなります。

検索エンジンのアルゴリズムは日々進化しており、関連キーワードの選定やコンテンツの質、リンクの張り方など、多方面から対策を行なう必要があります。大規模なECサイトやメディアでは、SEO専門チームを編成して継続的にサイト改善を進めることも珍しくありません。

オンライン広告

デジタルマーケティングでは、以下のような広告を活用してブランド認知度向上や販売促進を狙います。

  • ディスプレイ広告:Webサイトのバナー枠に画像や動画を表示する広告です。ターゲットの興味関心に応じた自動配信が可能です。
  • リスティング広告:検索エンジンで特定のキーワードを入力した際に表示されるテキスト広告です。ユーザーの検索意図に合わせて配信されるため、購買意欲が高い層にアプローチしやすくなります。
  • コンテンツマーケティング:企業が有用な情報やノウハウを発信し、見込み顧客や既存顧客に価値を提供する手法です。ブログやホワイトペーパー、動画、Webセミナーなどの形式が考えられます。

Lesson 11Chapter 3.3
ITを活かしたデータ分析

ITによってもたらされるビッグデータやリアルタイム解析の仕組みを使えば、企業は今までにないレベルで市場や顧客行動を把握できます。

顧客の行動履歴や嗜好情報を分析して施策を打つことで、企業はより効率的に売上やブランド力を伸ばすチャンスを得られるようになっています。

  • データマイニング・機械学習
    大量の顧客データや購買履歴を分析し、潜在ニーズや購買パターンを見つけ出す手法です。過去の行動データからAIが予測モデルを作り、どの顧客がどのタイミングで何を購入する可能性が高いかを示すことができます。
  • 顧客セグメンテーション
    年齢、居住地、趣味嗜好などの属性をもとに顧客をグループ化し、それぞれに最適なマーケティング施策を考える方法です。デジタル化が進んだ現代では、WebアクセスやSNSでの反応、GPSを使った位置情報など、より細かい切り口でセグメンテーションが可能となっています。
  • レコメンドエンジン
    ECサイトなどで顧客に対して「この商品もおすすめ」と提案する仕組みです。顧客の閲覧履歴や購入履歴、類似ユーザーの行動データをもとに自動的に商品を推薦し、アップセルやクロスセルの機会を増やします。
  • リアルタイムダッシュボード
    BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやデータ可視化プラットフォームを活用して、売上やアクセス数、在庫状況などをリアルタイムにモニタリングします。各部門で同じ指標を参照しながら意思決定できるため、キャンペーン効果の評価や在庫補充のタイミング調整がスピーディーに行なえます。

Lesson 11Chapter 4
経営管理システムの活用

企業が継続的に成長していくには、経営資源を効率よく管理し、組織全体の動きを可視化することが重要です。

経営管理システム は、財務、在庫、顧客データなど、あらゆる情報を集約・分析することで経営判断を支援します。

競争の激しい市場で生き残るためには、これらのシステムの導入・活用を適切に行ない、常に最新の情報を踏まえて意思決定を行なうことが求められます。

Lesson 11Chapter 4.1
主要な経営管理システム

経営管理システムには、「ERP」や「SCM」、「CRM」などがあります。

ERP
統合基幹システム
SCM
サプライチェーン管理
CRM
顧客関係管理

ERP(統合基幹業務システム)

ERP は、会計や人事、購買、販売管理など、企業活動の基幹領域を一元的に管理するシステムです。

部門ごとに別々の基幹システムを導入していると、データが分断されて整合性を保ちにくくなる問題があります。

ERPを導入すると、1つのシステムに統合されたデータを使って、各部署が共通の情報を参照できます。

  • 部門間のデータ共有が容易になると、在庫数や売上数値がリアルタイムに反映されます。
  • 予実管理や財務分析など、管理会計の観点から経営状況をすばやく把握することにも役立ちます。

SCM(サプライチェーン管理)

SCM は、製品が原材料の調達から最終的な顧客の手に渡るまでのプロセスを管理する仕組みです。

調達コストの削減や在庫最適化を図るうえで、サプライチェーン全体の状況を可視化する必要があります。

  • 生産計画や配送スケジュールなど、各段階で発生するデータをもとに最適なスケジューリングを行ないます。
  • ニーズ予測を精緻化することで、過剰生産や在庫不足などのリスクを低減できます。

CRM(顧客関係管理)

CRM は、顧客との関係性を管理・強化するためのシステムです。顧客の購買履歴や問い合わせ内容を集約し、適切なアプローチやサポートを提供しやすくします。

  • 営業部門とカスタマーサポート部門が同じ顧客情報を共有することで、フォローがスムーズになります。
  • 顧客満足度の向上を目指すだけでなく、新規顧客の獲得や既存顧客の離脱防止にも役立ちます。

Lesson 11Chapter 4.2
各業務システムの連携とポイント

経営管理システムと、各業務システムとの連携についても確認しましょう。

生産管理・販売管理・在庫管理システム

製造業や小売業においては、生産から販売、在庫の動きを総合的に管理することが不可欠です。これらのシステムは、以下のような機能をもっています。

  • 生産管理:生産計画や工程の進捗を管理し、品質とコストを適切にコントロールします。
  • 販売管理:受注、売上、請求、入金情報などを管理し、営業活動を支援します。
  • 在庫管理:入出庫データを把握し、欠品や過剰在庫が生じないよう在庫数量を最適化します。

これらの業務システムを個別に運用していると、データの整合性がとりにくくなります。そこで、基幹システムや他部門のシステムと連携させることが重要です。生産量や在庫数のデータがリアルタイムに更新され、販売予定と照らしあわせて自動的に生産計画を調整できるようになります。

システム連携による効率化と情報活用

各業務システムを連携させると、重複入力やヒューマンエラーの削減につながります。さらに、横断的にデータを分析することで、新たなビジネス機会や改善施策を発見しやすくなります。

  • BIツールを使って、売上データと生産データ、在庫データを組み合わせたダッシュボードを構築できます。
  • 機械学習の技術を取り入れると、需要予測や購買意欲の高い顧客の抽出など、高度な分析が可能になります。

Lesson 11Chapter 4.3
導入のメリットとリスク

経営管理システムを導入すると、部門間でバラバラだったデータを統合し、組織全体で一貫性のある情報共有が可能になります。

経営レベルでは、投資判断や新規事業立案に使うデータを迅速に得られる利点があります。

メリット

  • 品質向上とコスト削減を同時に実現しやすくなります。
  • 需給バランスを適切にコントロールし、顧客満足度を高めることで、競争力を強化できます。

デメリット

  • 経営管理システムの導入には高額なライセンス費用やカスタマイズ費用が発生します。
  • システム障害時には業務がストップするリスクもあります。

デメリットへの対策

導入前からリスク対策を検討することが大切です。

  • 段階的な導入:全機能を一度に展開するのではなく、スモールスタートで検証を重ねる方法があります。
  • 冗長化とバックアップ:システム障害時に備え、サーバーやネットワークを冗長化し、日次バックアップをとります。
  • 運用マニュアル整備:社内の運用ルールや問い合わせ窓口を明確にし、トラブル発生時の対応フローを事前に用意します。

経営管理システムは企業の生命線となる重要な仕組みです。導入や運用段階で正しい設計・管理を行ない、経営目標に沿った情報活用を継続することで、大きな経営効果を得ることができます。

Lesson 11Chapter 5
会計・財務の基礎

企業が継続的に成長するためには、収益や資金繰りを安定させることが欠かせません。そこで重要になるのが、会計と財務の知識を正しく身につけることです。

ここでは、会計や財務の基礎について説明します。

Lesson 11Chapter 5.1
会計とは

会計 は、企業の経営活動を記録・整理し、その結果を利害関係者に報告する仕組みです。

取引の内容を適切に集計し、売上や費用、利益などの指標を明らかにすることで、経営者や投資家、取引先などが企業の状況を客観的に把握できます。

  • 社内向けに使われる会計情報は、コスト削減や利益改善のための管理手段となります。
  • 社外向けには、投資家や金融機関が企業の財政状況を判断する材料として活用します。

財務会計と管理会計の違い

会計には大きく分けて 財務会計管理会計 が存在します。

  • 財務会計:主に株主や債権者などの社外ステークホルダーへ報告するために行なわれます。公認会計士による監査を受ける決算書がここに含まれます。
  • 管理会計:社内の経営判断や業績管理のために行なわれます。財務会計とは異なり、企業独自の方法でコストや利益を分析することが許されています。

Lesson 11Chapter 5.2
主な会計用語と指標

良く使われる会計用語や指標について確認しましょう。

売上・利益・原価などの基本用語

  • 売上:商品やサービスを販売して得た収益総額です。
  • 原価:売上を得るために直接必要となるコストで、製造業の場合は材料費や直接労務費などが含まれます。
  • 利益:売上から必要経費を差し引いた金額です。通常、営業利益や経常利益、最終的な純利益など複数の段階が存在します。

損益分岐点

損益分岐点 は、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。固定費と変動費に分けて考えると把握しやすくなります。

  • 変動費:生産量や販売量に応じて増減する費用です(材料費や仕入れ費用など)。
  • 固定費:生産量や販売量に関係なく一定額発生する費用です(家賃や人件費など)。

計算式は以下の通りです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 - 変動費率)

たとえば、固定費が 300万円、売上のうち変動費が 60%(変動費率 0.6)だとすると、

損益分岐点売上高 = 300万円 ÷ (1 - 0.6) = 300万円 ÷ 0.4 = 750万円

よって、売上が 750万円 に達してはじめて利益がゼロラインになります。

自己資本比率、総資本回転率、ROE など

会計指標には、企業の安全性や収益性を評価するうえで役立つものが多数あります。

  • 自己資本比率:総資本に占める自己資本の割合を示します。
    自己資本比率(%) = (自己資本 ÷ 総資本) × 100
    

    数値が高いほど財務基盤が安定しているといえます。

  • 総資本回転率:総資本に対する売上高の大きさを示し、資本を効率的に使っているか判断します。
    総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資本
    
  • ROE(自己資本利益率):株主が投資した自己資本に対して、どれだけの利益を上げたかを示す指標です。
    ROE(%) = (当期純利益 ÷ 自己資本) × 100
    

Lesson 11Chapter 5.3
財務諸表の概要

財務諸表(ざいむしょひょう)は、企業や組織の財務状況や経営成績を示すための公式な報告書で、主に以下の3つの主要な書類で構成されています。

  • 貸借対照表(B/S)
  • 損益計算書(P/L)
  • キャッシュフロー計算書(C/F)
期首貸借対照表(B/S)
損益計算書(P/L)
当期純利益
キャッシュフロー計算書(C/F)
期末貸借対照表(B/S)

貸借対照表(B/S)

貸借対照表(Balance Sheet) は、ある時点での企業の資産や負債、資本を整理した表です。企業の安定性をチェックするうえで基礎となります。

  • 資産:現金や売掛金、在庫、設備などを含みます。
  • 負債:買掛金や借入金などの返済義務があるものです。
  • 資本:自己資本とも呼ばれ、株主が出資したお金や利益の蓄積から成り立ちます。

貸借対照表(B/S)の例(単位:千円):

借方 金額 貸方 金額
現金および預金 10,000 短期借入金 8,000
売掛金 5,000 買掛金 6,000
商品 4,000 社債 2,000
建物 20,000 資本金 15,000
設備 6,000 利益剰余金 14,000
資産合計 45,000 負債・純資産合計 45,000

損益計算書(P/L)

損益計算書(Profit and Loss Statement) は、一定期間における収益と費用の状況を示す表です。企業がどの程度の利益を出したかを把握でき、経営成績を評価するために用いられます。

  • 売上高、売上原価、販管費(販売費および一般管理費)などが記載されます。
  • ここから算出される営業利益や経常利益、最終的な当期純利益が重要な評価指標です。

損益計算書(P/L)の例(単位:千円):

項目 金額
売上高 50,000
売上原価 30,000
売上総利益 20,000
販売費および一般管理費 10,000
営業利益 10,000
営業外収益 1,000
営業外費用 500
経常利益 10,500
税引前当期純利益 10,500
法人税等 3,500
当期純利益 7,000

キャッシュフロー計算書(C/F)

キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement) は、一定期間における資金の増減を示します。以下の3つの区分に分けてお金の流れを整理します。

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書(C/F)の例(単位:千円):

項目 金額
営業活動によるキャッシュフロー 12,000
投資活動によるキャッシュフロー △5,000
財務活動によるキャッシュフロー △4,000
現金および現金同等物の増減額 3,000
期首現金および現金同等物残高 7,000
期末現金および現金同等物残高 10,000

Lesson 11Chapter 5.4
ITを活用した財務・会計システム

現在では、会計や財務の処理は、パソコンを使って行なうことが一般的です。

会計ソフト

企業の規模に応じて導入できる会計ソフトは多種多様です。取引データの入力を行なうと、仕訳帳や総勘定元帳、試算表などの帳票を自動生成する仕組みが一般的です。

  • 勘定科目の登録や決算処理もソフト上で一元管理できます。
  • クラウド型を選ぶと、複数拠点から同時に作業しやすくなり、データのバックアップも自動化できます。

経費精算システム・クラウド会計

  • 経費精算システム:社員が立て替えた経費をオンラインで申請・承認する仕組みです。領収書のスキャンやカード明細との連携により、手入力の手間が削減されます。
  • クラウド会計:インターネットを通じて会計サービスを利用する形態です。手軽に導入できるうえ、バージョンアップが自動で行なわれる利点があります。

リアルタイム分析と経営へのフィードバック

ITを活用すると、企業の数値をリアルタイムに把握し、迅速に施策を打てるようになります。BIツールと組み合わせれば、部門別の収益分析や期間比較など、経営に役立つダッシュボードを用意できます。

  • 予算と実績の乖離を早期に検知し、必要に応じて修正する体制が整いやすくなります。
  • クラウドサービスを用いると、経営陣が出張先や在宅勤務中でも最新のデータをチェック可能です。

Lesson 11Chapter 6
ITガバナンスと標準化

企業がITを活用するうえでは、技術的な優位性だけでなく、組織全体でITを適切に管理し、社会的な規格やルールを遵守することが欠かせません。

ITガバナンス は、経営方針を踏まえながらIT資源を管理し、リスクをコントロールするための枠組みです。

一方で、世界各国や産業界ではさまざまな 標準化 が進んでおり、これらの規格に則ることで安全性や互換性の確保、業務の効率化が実現しやすくなります。

以下では、ITガバナンスと標準化、それに関連する監査や内部統制について説明します。

Lesson 11Chapter 6.1
ITガバナンスとフレームワーク

ITガバナンス構築の必要性

ITガバナンス とは、企業がIT投資やIT運用を含む情報システム関連の活動を戦略的に管理・統制する仕組みです。システム障害や情報漏えいのリスクを最小限に抑えつつ、ITの効果を最大限に引き出すことを目的としています。

  • 経営陣のリーダーシップをもとに、プロジェクト管理やリスク管理のルールを定め、組織的なコミュニケーションを徹底します。
  • 事業目標に合致したIT投資を行ない、その成果を定量的に評価する仕組みが求められます。

COBITなど代表的なフレームワーク

ITガバナンスを実践するためのフレームワークに、COBIT(Control Objectives for Information and Related Technology)などがあります。

  • COBITは、ITプロセスを統制し、リスクを管理するための具体的なガイドラインを提供します。
  • ほかにも、ITIL(IT Infrastructure Library)や ISO/IEC 20000 など、ITサービス管理のベストプラクティスをまとめた指針があります。

ITマネジメントの重要性(サービスマネジメント、運用管理 など)

システムの導入だけでなく、運用フェーズの管理体制が整っていないと、サービス停止やセキュリティ事故のリスクが高まります。

  • ITサービスマネジメント では、ユーザーにとっての価値を重視し、安定稼働やサービスレベルの維持を目指します。
  • 運用設計を明確にし、サービスデスクやインシデント管理、問題管理、変更管理などを体系的に行なうことが推奨されます。

Lesson 11Chapter 6.2
標準化関連

標準化の、主要な国際/国内標準には以下のようなものがあります。

ISO、JIS、IEC など主要な国際/国内標準

ITやビジネスにおいては、国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)で定めた規格が広く採用されています。国内では日本工業規格(JIS)も重要な存在です。

  • たとえば、ISO 9001 は品質マネジメント、ISO 27001 は情報セキュリティ管理に関する規格として知られています。
  • JISは、産業機器や電子部品などの仕様を統一し、市場の混乱を防ぐために策定されています。

JANコード、QRコード などの規格活用

流通や小売の現場では、商品コードやバーコードの標準化が欠かせません。

  • JANコード:日本の共通商品コードで、商品1点ごとに固有の番号が割り振られています。POSシステムで読み取ることで、商品の管理を効率化できます。
  • QRコード:大量の情報を格納できる2次元コードです。URLやテキストなどを埋め込めるため、モバイル決済やチケットの電子化にも活用されています。

Lesson 11Chapter 6.3
システム監査と内部統制

監査の目的と役割

システム監査 は、情報システムが適切に運用されているか、リスク管理や統制が機能しているかを客観的に検証する活動です。監査結果は、経営層がシステムの改善点を把握し、対策を講じるための重要な判断材料となります。

  • 内部監査と外部監査がありますが、いずれも独立した立場から実施される点が大切です。
  • 監査人は、システムのセキュリティ対策やデータの完全性、業務フローの妥当性など、多角的にチェックします。

システム監査のプロセス

監査は主に以下のプロセスを踏んで進められます。

  1. 計画:監査範囲や目的、手法を決定し、監査チームやスケジュールを確定します。
  2. 実施:問診や資料精査、システムへのアクセス権チェック、ログ調査などを行ない、実態を把握します。
  3. 報告:監査報告書をまとめ、問題点や改善提案を経営層や関係部署に提示します。
  4. フォローアップ:改善措置の進捗を定期的に確認し、継続的なモニタリングを行ないます。

内部統制とリスクマネジメント

企業が適切な財務報告を行ない、業務を効率化するためには、内部統制 の仕組みを整える必要があります。内部統制とは、組織の目標達成に向けたリスクを管理し、不正や誤りが起きにくい環境を構築するための全般的な取り組みです。

  • 経営者が主導してリスク評価を行ない、必要な統制活動を組織全体に浸透させます。
  • IT部門も含めた全社レベルのコントロールが機能することで、不正の早期発見や人的ミスの削減が期待できます。

Lesson 11Chapter 7
各種法務・ガイドラインと企業倫理

企業がビジネスを展開するうえでは、法律や規制、社会的ルールを守り、利害関係者の信頼を得ることが欠かせません。

とりわけ、情報技術を活用する現場では、知的財産権やセキュリティ関連法規、労働法規など、多岐にわたる法令の理解が必要です。

社会からの信頼を支え、持続的な成長を実現するためにも、各種ガイドラインや企業倫理の重要性を認識し、徹底したコンプライアンス体制を築くことが求められます。

Lesson 11Chapter 7.1
知的財産権の基礎

著作権:保護の対象・範囲

著作権 は、文学や音楽、プログラムコードなどの著作物を保護する権利です。著作者に無断で複製や改変、配布を行なうと侵害にあたります。

  • 書籍や音楽、映像作品だけでなく、Webサイトやソフトウェアにも適用されます。
  • 近年はデジタルコンテンツの流通が盛んなため、個人がSNSに投稿する写真や文章にも著作権が発生します。

産業財産権:特許権、商標権、意匠権、実用新案権

産業財産権 は、発明やデザイン、ブランド名などに対して与えられる権利群です。企業が技術的優位性を確保し、市場の競争力を高めるために活用されます。

  • 特許権:新しい発明を保護し、一定期間は特許権者が独占的に実施できます。
  • 商標権:商品やサービスを区別するためのアイコンやロゴを保護します。
  • 意匠権:物品の形状や模様など、デザイン性に関する創作を保護します。
  • 実用新案権:物品の形状や構造に関する考案を保護します。

Lesson 11Chapter 7.2
セキュリティ関連法規

サイバーセキュリティ基本法

サイバーセキュリティ基本法 は、国レベルでサイバー攻撃への対策を促進するための枠組みを定めた法律です。公共機関や事業者に対して、情報セキュリティの強化や情報共有の推進を求めています。

  • 電力や金融、交通など重要インフラを扱う事業者は特に厳格なセキュリティ対策が期待されます。
  • インシデントが発生した場合、適切なリスク評価や公表が求められます。

不正アクセス禁止法

不正アクセス禁止法 は、他人のIDやパスワードを無断で利用してシステムに侵入する行為などを禁止する法律です。

  • 不正アクセスを行なうだけでなく、他人の認証情報を第三者に提供する行為も違反になります。
  • 企業は認証情報を安全に管理し、不正ログインを防ぐための仕組みを整える必要があります。

Lesson 11Chapter 7.3
労働関連・取引関連法規

IT業務では、プロジェクト単位で外部人材を活用するケースが多いです。それぞれの契約形態について、主な特徴と指示系統の違いを整理しておきましょう。

  • 雇用契約
  • 派遣契約
  • 請負契約(業務委託契約)
  • 準委任契約、SES
契約形態 雇用契約 労働者派遣契約 請負契約 準委任契約・SES
法的根拠 労働基準法 労働者派遣法 民法(請負) 民法(準委任)
目的・責任 企業が労働者を直接雇用し、労働を提供 派遣元の労働者が派遣先にて労働を提供 仕事の完成(成果物)に対して完成責任を負う 業務遂行が目的(成果物に対する責任は軽い)
指示系統 企業(使用者)が直接的かつ具体的に指示 派遣先企業が直接業務指示を行ない、雇用は派遣元 発注者は成果物に対するチェック・検収が中心 発注者の求める範囲で業務を行なう(柔軟に指示を受けるが、雇用ほど強くはない)
使用従属関係 企業と労働者の間に成立 派遣先で実質的に従属関係が生じる(雇用関係は派遣元) 独立性が高く、請負人が自己の裁量で業務を遂行 雇用や派遣ほどの従属関係ではなく、独立事業者として技術サービス提供(SESなど)

雇用契約

  • 労働基準法 に基づき、労働者が企業の指揮命令に従って労働を提供し、その対価として賃金を受け取る契約
  • 企業が労働者を直接雇用するため、「社会保険加入」や「労働条件通知書」の作成など労務管理上の義務が生じる
  • 指示系統
    • 企業が労働者に対し、業務内容・場所・方法などを具体的かつ直接的に指示する
    • 労働者は企業の組織に組み込まれ、使用従属関係が成立する

派遣契約

  • 労働者派遣法 に基づく契約で、派遣会社(派遣元)が雇用する労働者を派遣先企業に派遣する形態
  • 派遣先は、派遣元と労働者派遣契約を締結し、労働者への指示は派遣先が行なう
  • 指示系統
    • 業務上の指示や管理は「派遣先」が行なうが、雇用関係(社会保険や給与支払い)は派遣元と労働者の間に存在
    • 派遣先の就業規則などに従うケースが多く、実質的には派遣先で業務を行なう点が特徴

請負契約(業務委託契約)

  • 民法上の「請負契約」 に該当し、請負人(受託者)は「仕事の完成」という成果物の引き渡しが目的
  • 結果に対して責任を負い、完成物が契約内容に適合しない場合には修補義務などがある
  • 指示系統
    • 請負人は独立して業務を遂行する義務と責任を負う
    • 発注者は成果物に対するチェックを行なうが、日々の業務方法・進行管理などについて直接かつ具体的な指示を行なうことは原則できない(指示しすぎると「偽装請負」になるおそれがある)

準委任契約、SES

  • 民法上の「準委任契約」(民法656条以下)に基づく契約形態の1つ
  • 「委任」が法律行為を対象とするのに対し、「準委任」は法律行為以外の事務処理(業務)を対象とする
  • 仕事の「完成」ではなく、業務の「遂行」を目的とする契約で、結果責任は請負契約ほど厳格ではない
  • IT業界でよく用いられるSES(System Engineering Service)も、「準委任契約」の形をとることが多い
  • 指示系統
    • 受任者(業務を担う側)は、発注者との合意範囲内で業務を行なうが、請負と比べて比較的柔軟に指示を受けることができる
    • ただし、雇用契約や派遣契約ほど指揮命令系統が強く働くものではなく、あくまで「独立性」を維持しながら、必要に応じて指示を仰ぐイメージ

善管注意義務

善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)とは、「通常の事業者・専門家として求められる注意をもって業務を遂行しなければならない」というものです。準委任契約の受任者には「善管注意義務」があります。たとえば、ITエンジニアであれば、プログラミングやシステム設計に関して一般的に求められる専門知識・経験を踏まえた水準で作業を行なうことが要求されます。

電子商取引や下請法など取引に関わる法規

  • 電子商取引関連法規:ECサイトなどを運営する場合、特定商取引法で表示義務や返品ルールが定められています。
  • 下請法:大企業と中小企業の取引において、不公平な取引条件が行なわれないよう保護する法律です。発注時の仕様や支払条件を明確化する必要があります。

Lesson 11Chapter 7.4
ソフトウェアライセンス・オープンソースの取り扱い

商用ソフトウェアライセンス

市販されているソフトウェアには、使用範囲や台数などを定めたライセンス契約が付随します。

  • 企業で導入する際は、ライセンス規約を読んで台数制限や利用形態(法人限定・個人利用不可など)を確認します。
  • 違反すると法的トラブルにつながる場合があるため、IT資産管理ツールやライセンス管理シートなどでインストール数やバージョンを把握します。

OSS(オープンソースソフトウェア)活用時の注意点

オープンソースソフトウェア(OSS) はソースコードが公開され、誰でも改変・再配布できるものが多いですが、その利用には独自のライセンス条項が存在します。

  • 代表的なライセンスには GPL, MIT License, Apache License などがあり、それぞれコードの再配布時に求められる条件が異なります。
  • OSSを自社システムに組み込んで配布する場合、ライセンス条件を満たさないと著作権侵害となる可能性があります。

Lesson 11Chapter 7.5
その他の法律・ガイドライン・情報倫理

個人情報保護法

企業や組織が個人情報を取り扱う際には、個人情報保護法 に基づき安全管理措置を講じる必要があります。

  • 取得した個人情報の利用目的を明確にし、本人の同意を得た範囲内で取り扱うことが基本です。
  • 業務委託先への管理体制確認や、プライバシーポリシーの公表なども求められます。

独占禁止法、公正取引委員会ガイドライン

市場支配的な立場を悪用した不当な取引や価格設定は、独占禁止法 に抵触する恐れがあります。IT業界ではプラットフォーム事業者などが持つ影響力が大きいため、公正取引委員会ガイドラインによる監視が強化されています。

  • 過度な囲い込みや下請け事業者への不当な圧力は規制対象となります。
  • サービス料金や契約条件の設定には透明性が求められます。

コンプライアンスと企業倫理の重要性

コンプライアンスは法令を守ることだけでなく、社会規範や道徳観にもとづく行動を含みます。企業が持続的に発展するには、企業倫理 を確立し、組織全体で共有することが欠かせません。

  • 社内規程や行動指針を整備し、従業員が疑問や不正を指摘できる仕組みを用意します。
  • 顧客や取引先、従業員など多角的なステークホルダーとの信頼関係を築くには、誠実な経営態度と透明性の高い情報開示が求められます。

Lesson 11Chapter 8
まとめ

このレッスンでは、企業活動におけるビジネス戦略とITの関連性を中心に、会社の基本的な仕組みや経営戦略フレームワーク、マーケティングと事業価値創出、経営管理システムの活用、会計・財務の基礎、ITガバナンスと標準化、各種法務・ガイドラインと企業倫理といった幅広いトピックを解説しました。

ビジネスパーソンがこれらの要点を理解していれば、経営層やエンジニア、現場担当者など社内外のステークホルダーとの共通言語を確立でき、ITリソースを戦略的に活用した意思決定が行ないやすくなります。

ぜひ、本レッスンで学んだ基礎知識や活用方法を踏まえて、自社や自身の業務においてITを最大限に活かし、継続的な価値創出と競争力強化を目指してください。

このレッスンで学んだこと

このレッスンで学んだことを振り返り、理解度を確認しましょう。

  • 会社は、法的ルールに基づいて設立される組織で、主に利益を追求するための商品・サービス提供を行なう。
  • 会社法は、会社の設立・運営・株主総会や取締役会のルールなど、企業活動を規律する基本法律である。
  • 株式会社は株式を発行して資金を集める企業形態。株主は出資額を超える責任を負わず、配当やキャピタルゲインを得る可能性がある。
  • 経営陣には代表取締役(社長)や取締役、監査役、執行役員などがあり、それぞれの役職で責任範囲や役割が異なる。
  • ビジョンは、企業が長期的に実現したい将来像。経営理念(ミッション)は、企業が存在する意義や目的を示す。
  • KGIは最終ゴールを示す指標、KPIはKGI達成に向けた中間指標。目標を数値化し、PDCAサイクルを回すことで実効性を高める。
  • BSC(バランス・スコアカード)は、財務・顧客・業務プロセス・学習と成長の4つの視点で企業を多面的に評価する。
  • CSR(企業の社会的責任)は、環境保護や社会貢献、企業倫理を考慮し、ステークホルダーとの信頼関係を重視する取り組み。
  • PEST分析(政治・経済・社会・技術)は、外部環境を総合的に捉えてリスクと機会を整理するフレームワーク。
  • 3C分析(顧客・競合・自社)は、顧客ニーズと競合状況を踏まえたうえで、自社の経営資源をどう活かすか考えるための手法。
  • 5Forces分析は、新規参入の脅威や買い手・売り手の交渉力、代替品の存在、業界内競争など、業界全体の競争要因を把握する。
  • 組織形態には、職能別組織や事業部制組織、マトリクス組織などがあり、戦略実行の効率や部門間連携に影響を与える。
  • マーケティングでは、4Pや4Cのフレームワークを使う。
  • デジタルマーケティングは、SNSや検索エンジン最適化(SEO)、オンライン広告など、ITを活用して顧客との接点を広げる活動である。
  • データ分析では、顧客行動履歴やビッグデータを活かし、需要予測やレコメンドなどの高度な手法がマーケティング効果を高める。
  • ERP(統合基幹業務システム)は、会計や購買、販売管理など基幹業務を一元化し、リアルタイムでデータを共有できる。
  • SCM(サプライチェーン管理)は、生産から配送、在庫までを最適化する仕組みで、コスト削減と顧客満足の両立を狙う。
  • CRM(顧客関係管理)は、顧客情報や購買履歴を統合・分析し、より良いサービス提供や関係構築を目指す。
  • 会計には財務会計(社外報告用)と管理会計(社内管理用)があり、損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書をもとに経営判断を行なう。
  • ITガバナンスは、企業がIT投資やリスク管理を戦略的に行ない、システム障害や情報漏えいのリスクを最小化する枠組みである。
  • システム監査は、情報システムが適切に運用されているかを客観的に確認するプロセス。不備やリスクを洗い出し、改善点を提案する。
  • 法務や企業倫理の観点では、知的財産権(著作権や特許権など)、個人情報保護、労働法規、取引関連法規を遵守し、透明かつ誠実な経営が求められる。

課題システム開発の理解度確認

下記の5つの質問に答えてください。「回答フォーマット」をコピーして、コメント欄に記入して提出してください。

  1. ビジョンと経営理念(ミッション)の違いを、説明してください。
  2. KGIとKPIの関係性を、説明してください。
  3. マーケティングの4P(製品・価格・流通・プロモーション)のうち、流通(Place)の重要性を説明してください。
  4. 貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の役割の違いを、説明してください。
  5. ITガバナンスとは何か、企業がこれを強化する理由を説明してください。

回答フォーマット

1. 
2. 
3. 
4. 
5. 

Lesson 11Chapter 9
最後に

このコースを通じて学んだITの基礎知識や考え方は、ビジネスパーソンにとって大きな武器となります。企業や社会がデジタルを軸に変革を遂げるいま、ITを理解し使いこなす力は、自分の仕事をより効率的に進めるだけでなく、新たな価値創造にも直結します。

技術は日進月歩ですが、その根底を支える基本的な概念や問題解決へのアプローチは、どんな時代でも通用するものです。本コースで身につけた知識を足がかりに、さらに新しいテクノロジーやアイデアを学び、皆さんの事業や仕事の場で活かしていただければ幸いです。

ときには変化を前に不安に感じることもあるでしょう。しかし、ITを理解していると、挑戦や工夫がむしろワクワクする機会へと変わります。皆さんにはぜひ、学んだことを活かして「もっとできることはないか」「新しい手段を見つけられないか」という視点を持ち続けてください。

本コースが、これからのキャリアやビジネスでITを最大限に活用し、前進するための一歩となることを願っています。勇気と好奇心を持って、変化の波を楽しみながら、これからも学びと挑戦を続けてください。